大判例

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仙台高等裁判所 昭和25年(ネ)205号 判決

控訴代理人は「原判決を取消す、被控訴人石切所村農地委員会(以下村農委という)が昭和二十三年十一月二十五日末尾添付目録記載第一の田についてした売渡計画を取消す、被控訴人岩手県農地委員会(以下県農委という)が右売渡計画に対する控訴人の訴願につき昭和二十四年四月一日した裁決を取消す、被控訴人村農委が昭和二十四年二月二十二日末尾添付目録記載第二の畑についてした売渡計画を取消す。被控訴人県農委が右売渡計画に対する控訴人の訴願につき昭和二十四年六月七日した裁決を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人において、

(一)  本件田畑の所有者であつた大沢万治は製材工場を経営している関係上、その職工をして製材の仕事の合間に本件田畑の耕作を手伝わせていたに過ぎず、右製材職人は労力の提供以外に何物をも提供しないし、職工として日々の賃金を貰つていたのであるから、所謂仮装自作地ではなく、大沢万治の自作地であつたのである。然るに被控訴人村農委が、右農地を自作農創設特別措置法(以下自創法と略称)第三条第五項第二号にあたる仮装自作地と認定して買収したのは違法な措置である。かような法律上何等根拠のない軌道を逸した行政処分は単に取消し得るに過ぎないものではなく、当然無効なりと解すべきであるから、これに基く売渡計画も亦無効の処分で取消を免れない。

(二)  本件の田はもと控訴人の所有であつたので、控訴人はこれが回復を念願していたが、昭和二十二年九月十六日の大洪水によつて本件田四枚のうち二枚は完全に流れ畦畔は決壊し内部は耕土が流出して低地となり、他の二枚は土砂が流れ込み小山となり、耕作田に回復することは困難の状況にあつた。そこで控訴人は昭和二十三年一月地主に対し復旧を申出で、且復旧して耕作可能の状態となつたら賃貸されんことを申出たところ、地主大沢万治は自ら修理して復旧した場合には控訴人に賃貸するとのことであつた。右の話合は即時に賃貸借契約をするというのではなく、まず耕作可能の状況に修復するのが先決問題で、それがきまつてから賃料その他の耕作条件を定めて小作契約をするはずであつて、控訴人は大沢万治の依頼によつて復旧の仕事をしていたのである。たゞ控訴人は将来賃貸借をするなら許可申請をするようにと村農委から勧められ、形式上昭和二十三年四月一日に申請したので、もとよりこれは契約の実態を表現したものではない。原審で大沢万治から本件土地を借り受けたように述べたが、当審では控訴人が本件土地の賃借人であることを主張するのではない。

(三)  仮に本件農地の買収処分が当然無効ではなく、取消し得るに過ぎず、しかも時の経過によりそれが確定したとしても、右農地の小作人はなかつたのであるから、その売渡の相手方は買受の申込者の中から公平妥当に定めるべきである。而して本件農地につき買受の申込をした者は控訴人の外戸来正吉、小野万一、新毛二三であつて、本件売渡計画では田は一筆づゝ分けて戸来正吉と小野万一を、畑は新毛二三を売渡の相手方としたのであるが、控訴人は前述のように本件田については大沢万治の依頼により復旧修理に当り、本件畑については春耕をしたもので、本件農地につき他の買受申込者よりも深い関係をもつものである。なお控訴人は当時田四畝八歩畑六反六十五分(内二反歩は林檎園)を耕作し妻、弟等稼働人員もあつて、将来自作農として立ち得るものである。右売渡の相手方とされた戸来正吉は田四反一畝、畑一町四反二歩を耕作し、新毛二三は田六畝二歩、畑三反一畝二十三歩を耕作し、小野万一は田八反九畝十七歩、畑二町五反十八歩を耕作しておるが、右戸来、小野等は本件田の売渡を受けなくとも何等痛痒を感ずるものではない。要するに、控訴人は農業に精進し得るものである点において他の者に劣らず、本件農地の売渡の相手方としては他の三者よりも、より以上適格者であるのに、本件売渡計画において殊更控訴人を除外したことは公平妥当な処置とはいえない。

と述べ、被控訴代理人において、

一、控訴人において本件農地買収処分の効力を云々してこれに基く売渡計画の効力を争う利益はない。

二、控訴人は本件農地に対する賃借権の設定につき知事の許可を受けていないのに拘らず、買受申込に際し、これを既成事実として主張するもので、これを是認することは将来許可制度を阻害するものである。しかも控訴人は大沢万治との間に本件土地の賃貸借契約を仮装したものである。

三、控訴人は耕作面積が少なく飯米農家の域を出でない。

と述べたほか、原判決事実摘示と同じであるから、こゝにこれを引用する。(立証省略)

三、理  由

末尾添付の農地がもと大沢万治(二戸郡福岡町居住)の所有であつて、それが同人の仮装自作地と認定されて買収され、次いで被控訴人村農委において田と畑と各別に売渡計画を樹てたこと及びこれに対し控訴人から異議訴願に及んだ経過等に関する事実が何れも控訴人主張のとおりであることは当事者間に争がない。

よつて以下右各売渡計画が違法なりとする控訴人の主張につき審究する。

一、農地が自創法第三条第五項第二号に規定する所謂仮装自作地にあたらないのにかゝわらず、仮装自作地として買収された場合においても、その買収処分は当然無効とはいえない。従つてその買収処分が取消されることなくして確定した以上は、その農地について樹てられた売渡計画も無効でないことはいうまでもない。のみならず本件農地の買受を申込んだ控訴人において前段階の買収処分が無効であることを理由に、売渡計画の無効を主張することは自家撞着のそしりを免れず、その無効を云々する利益はないものといわざるを得ない。いずれにせよ右の点に関する控訴人の主張は採用し得ない。

二、本件農地につき自創法第十六条第一項、同法施行令第十七条による第一順位の売渡の相手方たるべき者が買受の申込をしなかつたことは被控訴人も争わないところである。而して控訴人が本件農地につき適法な賃借権その他の耕作権を有しないことはその主張自体により明らかであり、仮令控訴人が本件売渡計画の定められた当時もとの地主大沢万治の依頼により本件田地の災害復旧工事に従事し、もしくは本件畑を事実上耕作していたとしても同法施行令第十八条第一号に規定する「売渡計画を定める時期において耕作の業務を営む小作農」には当らないものというべきであるから、控訴人が本件農地についての第二順位の売渡の相手方にあたるとはいえない。結局他に先順位者の存しない以上控訴人は他の買受申込者と同列に同令第十八条第二号によつて売渡の相手方たり得るに過ぎないものというべきである。ところで原審における被控訴人村農委代表者戸来勝三本人訊問の結果によると、本件農地について買受の申込をした者は控訴人外三名であつたが、被控訴人村農委においては調査審議の結果自創法第十六条第一項、同法施行令第十八条第二号により本件田については訴外小野万一及び戸来正吉を(各一筆宛)、畑については訴外新毛二三を、それぞれ控訴人にまさる農業に精進する見込のあるものと認めて売渡の相手方として本件売渡計画を定めたことが認められる。而して仮に控訴人主張のような事情があるからといつて、被控訴人村農委の右認定が違法であるとはいえず、その他控訴人の全立証によつてもいまだこれを違法視するに足りない。控訴人を売渡の相手方としなかつた本件の売渡計画が違法なりとする控訴人の主張も採用し得ない。

以上と同趣旨の原判決は相当で本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条に則り主文のとおり判決する。

(裁判官 谷本仙一郎 村木達夫 高橋雄一)

(目録省略)

原審判決の主文および事実

一、主  文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告石切所村農地委員会が昭和二十三年十一月二十五日別紙目録記載第一の田につきなした売渡計画を取消す。被告岩手県農地委員会が昭和二十四年四月一日右売渡計画に対する原告の訴願を棄却した裁決を取消す。被告石切所村農地委員会が昭和二十四年二月二十二日別紙目録記載第二の畑につきなした売渡計画を取消す。被告岩手県農地委員会が昭和二十四年六月七日右売渡計画に対する原告の訴願を棄却した裁決を取消す。訴訟費用は被告等の負担とする。」旨の判決を求め、その請求の原因として、別紙目録記載第一の田及第二の畑は何れも元訴外大沢万治所有に係り、同人は製材工場経営の傍らその使用する人夫をして、第二の畑については昭和二十一年度迄、第一の田については昭和二十二年度迄各耕作せしめて来たが、訴外岩手県知事は、右大沢万治の耕作する右田畑は何れも所謂仮装自作地なりと認定して、第一の田については昭和二十三年三月二日、第二の畑については同年七月二日各買収処分を為した。次で被告石切所村農地委員会は右に基きこれが売渡計画を樹てるに当り、買受の申込をした原告を差措いて、第一の田について昭和二十三年十一月二十五日、第二の畑については昭和二十四年二月二十二日各訴外人を売渡の相手方と定めた。よつて原告は右田について為された売渡計画に対して昭和二十三年十二月六日被告石切所村農地委員会に異議の申立をしたが、同月十五日同委員会は異議を却下したので更に昭和二十四年一月五日被告岩手県農地委員会に訴願したが、同年四月一日同委員会は棄却の裁決を為し、右裁決書は同年五月四日原告に送達された。又畑について為された売渡計画に対して昭和二十四年三月一日被告石切所村農地委員会に異議の申立をしたが、同委員会は異議を却下したので、更に同月三十一日被告岩手県農地委員会に訴願したが、同年六月七日同委員会は棄却の裁決を為し、右裁決書は同年七月二十五日原告に送達された。

然しながら本件田畑は原告に売渡さるべきものである。

即ち右の田については前述の如く訴外大沢万治に於て自ら経営する工場の人夫を使用して昭和二十二年度迄耕作して来たところ、同年九月十六日大橋川の大洪水のためその一部は決壊し、一部は土砂に埋れてしまつたので、原告は昭和二十三年一月下旬右大沢万治から自分で復旧工事をすることを条件に同年度より右田を借り受け、同年春相当な人夫をかけ工事を為し、以来小作を続け、又畑については、原告は昭和二十三年一月九日右大沢万治より借り受け、同年度より耕作に従事したものである。

然るところ、前述の如く本件田畑は右大沢万治の所謂仮装自作地なりと認定され買収になつたものであるから其の背後に真実の耕作者が存在しなければならぬものであり、右の耕作者が本件田畑についての第一順位の売渡の相手方でなければならぬものであるが、この第一順位に当る者即ち大沢万治の経営する製材工場の人夫で本件田畑の耕作に従事した者は買受の申込をしなかつたので、買受の申込をした原告は自作農創設特別措置法施行令第十八条第一項第一号の規定に該当する第二順位の売渡の相手方たるべき者である。然るに被告石切所村農地委員会は右規定を無視して原告を差措き、田及畑について原告より後順位に当る訴外人をそれぞれ売渡の相手方と定めて各売渡計画を樹てたのであるから、右の売渡計画は違法であり、これを是認した被告岩手県農地委員会の裁決も又違法であるから右各売渡計画及裁決の取消を求めるため本訴請求に及んだ次第であると述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決を求め、答弁として、原告の主張事実中本件田畑が元訴外大沢万治の所有であつたこと、右田畑を岩手県知事が原告主張の日にそれぞれ右大沢万治の仮装自作地と認定して買収したこと、被告石切所村農地委員会が原告主張の日にそれぞれ売渡計画を樹て、その売渡の相手方が何れも訴外人であること、原告が右の各売渡計画に対し、それぞれ異議申立をなしたが否決され之に対し訴願をなし、右訴願は何れも被告岩手県農地委員会によつて棄却になつたこと、原告主張の本件田について昭和二十二年水害で被害を蒙つたことは各これを認めるが、原告主張の畑について原告が昭和二十三年一月九日訴外大沢万治より借り受け、同年度より耕作に従事したことは知らない。その他の点は全部否認する。

なお本件畑について原告が訴外大沢万治から借り受けの契約は仮装のものである。即ち右畑は昭和二十三年二月十三日被告石切所村農地委員会に於て買収の決定をしたが、右畑の所有者たる大沢万治は大滝清之亟の所有する二戸郡石切所村大字石切所字川原三十九番畑四畝二歩と実測面積で交換する約束があるとの事で、同委員会はこれを認めて実測分割の手続の関係より買収期日を一期遅らせ、昭和二十三年七月二日としたのである。然るに右買収の事実を了知した大沢万治は原告に右畑を小作せしめ、これを国に買収された際原告にこれを買受けさせ、国の右土地買収を実効なからしめんことを期して両者通謀の上原告に昭和二十三年四月一日賃貸したことに仮装したものである。仮にこれが仮装のものでないとしても、大沢万治の原告に対する賃借権の設定は岩手県知事の許可がないので原告は本件田畑について耕作の業務を営む小作農と言うことは出来ないから、原告は自作農創設特別措置法施行令第十八条第一項第一号所定の第二順位売渡の相手方たり得ぬものであると述べた。(立証省略)

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